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生産性を高める会議のデザイン 実践的手法【前編】

皆様の企業で「会議の質」が話題に上がることはありますか?

働き方改革や生産性向上が企業における喫緊の課題となり、いままで以上に高度な人材育成ソリューションが求められている。そんな状況の中、会議におけるファシリテーションの重要性はますます注目されるようになってきました。

「生産性を高め、働き方改革を実現するためのコミュニケーションスキルとして、我々が特に重要視しているのがファシリテーションです。アイデアを引き出し、整理し、合意形成を図ることは、すべての業務における中心的アクションです」

本コラムでは、HR Design Lab. 代表の楠本和矢が、会議をスムーズに進めるための「5つのS」を中心に、会議におけるファシリテーションの重要性とその役割について解説いたします。

ファシリテーションが必要とされる3つの時代背景

昨今ファシリテーションが必要とされてきている時代背景は、大きく三つあると考えます。

一つ目は、「働き方改革」、「生産性の向上」の共通課題化です。
労働時間の縮減の波に抗うことはもはや不可能。そうなった際、今までと同じアウトプットを維持するためには、同じことをより短い時間で成し遂げるか、同じ時間でより良いものを出すか、何れかしかありません。さもなければ、生産性は単に目減りするのみです。その両方を、全ての業務で実現するために、何が必要かと言えば、「コミュニケーションスキル」の底上げ以外にないと私は考えます。
企業活動において、様々なものが生み出され、意思決定される場面とは、考えてみると会議や打合せが殆どです。そのスキルを高めないことには、短くもならないし、より良いものも生まれない。そのスキルの真ん中にあるものがファシリテーションです。これ無くして、本当の意味での生産性向上、働き方改革というのは為し得ません。

そして二つ目は、停滞を突破するための「イノベーション」への渇望です。
全ての業界で成熟化が進む中、従前の事業だけでは頭打ち。そうなると、多くの企業が「新事業」をブレークスルーのきっかけにしようとするのは必然です。
しかし、そういうことに手慣れた企業はほとんどない。普通は「イノベーティブなアイデアを出せ」と問いを立てても、すぐに出てくるものではありません。だからといって、個人のアイデア創発力やセンスにのみ期待していても、マネジメントとは言えません。
メンバーからアイデアを引き出すために、最も必要となるスキルは「問い」を立てる力に他なりません。「いい問い」があるから、いいアイデアが出てくる。そこからアイデアを練り上げていくためにも、やはりそのための「問い」が必要となる。これはまさにファシリテーションスキルそのものです。

そして三つ目は、人材不足に伴う「辞めさせないマネジメント」への要求です。
採用市場は、今や完全に「売り手市場」です。簡単に採用したり、リプレイスできないとすると、現有戦力を維持し、育てて戦っていくしか道はない訳です。そして、売り手市場であるが故、下からマネジャーを見る目もどんどん厳しくなる。優秀な人材であるほど、「このマネジャーの下にいて、自分は伸びるのか?」という意識を持ちます。もしNOと判断されたら、すぐに会社を去ってしまいます。人を預かるマネジャーは、今まで以上に、「育成」の観点をもってマネジメントしなければいけません。
日常のやり取りの中で人を育てるためには、主体的に業務にコミットさせ、考える機会を与えるということが最も重要です。とにかく、一方的に押しつけないこと。思考のチャンスを奪わないこと。そんな「引き出し型のマネジメント」が必要な昨今、その真ん中にあるスキルがファシリテーションであることは言うまでもないでしょう。

HR Design Lab. 代表/博報堂コンサルティング 執行役員 楠本和矢

意見を言った人と、その意見は切り離して議論する

ではここからは、ファシリテーションを行う上での重要なポイントです。リーダーがやるファシリテーションと、そうでない人のファシリテーションでそのやり方は変わるのかどうかについてもお伝えします。
基本的に、誰がやろうがファシリテーションの技法自体は変わりません。但しファシリテーションの立場に合わせて、留意すべき点は幾つかあります。

まず上長がその会議の座長となり、ファシリテーションを行う場合です。このパターンが一番多いのではないでしょうか。もし、その会議のテーマに関して、リーダー自身に持論が既にあると、ファシリテーターという役割は理解しつつも、どうしても先に自分の意見を言いたくなったり、持論へと誘導したい気に駆られてしまいがちです。ですが、そこはぐっとこらえ、先ずはメンバーに対して問いを立て、意見を引き出すことに集中して下さい。リーダーが最初に持論を展開してしまうと、押しつけに聞こえて発想が拡がりません。発言する際は、途中や最後に混ぜたり、「これはあくまで例だよ」と添えて発言するなど、メンバーが萎縮したり白けないようにする工夫が必要です。

そして、ファシリテーターが上役ではない場合の留意点です。多くの方から、このケースにおけるファシリテーションの難しさを伺います。例えば、自分より立場が上の人がメンバーにいると、その上役の意見に引きずられ、発言が滞ったり、正しい選択が出来なくなったりしますよね。円滑なファシリテーションを阻むよくある状況です。私が主催する研修や講演等で、様々な対策をお伝えしていますが、有効な方法を一つ例示します。

それは、ホワイトボードを使って、「意見と発言者を切り離す」という方法です。何故、上役や声の大きい人の意見に影響を受けるのかというと、その人に、その意見を「発言」させ続けているからです。常に上役の口の周りでその意見がうごめくから、ファシリテーターやメンバーが、その人の立場やキャラクターに影響を受けてしまうのです。本来、その意見を「誰が言ったか」については、その意見の善し悪しには関係ないはず。ですので、先ずは「意見と発言者を切り離す」ために、一旦ホワイトボードにリストする。とにかくこれをやって下さい。一旦色々な方から発せられた意見やアイデアがホワイトボードにリストされると、誰がそれを言ったかなんて忘れていきます。とにかく、口頭でのやり取りが続く、「空中戦」を避けることです。

会議に「丸腰」で臨む人が多すぎる現状

著書『会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』にて、議論の設計モジュール「5つのS(Share(共有)、Set(定義)、Spread(拡散)、Solve(解明)、Select(選択)」を意識しておくと、会議がスムーズに進むという考え方をご紹介しました。この思想設計について説明いたします。

まず今まで、多くの会議を見てきた中で感じてきた問題意識があります。それは、会議に丸腰で臨む、何の想定も準備もしていないまま突っ込む人が本当に多く、それによって、非常に時間をロスしているケースが非常に多いということです。アジェンダを作っていたとしても、何の中身もない、ただテーマを並べただけのものだったり。
「議論の構成」をイメージ出来ていない会議に、生産性もへったくれもありません。

その様な問題意識を背景に、先ず、「議論の構成」を考えるためのツールが必要だと考えました。アジェンダを作る際のヒントとなったり、議論が脇道に逸れないように、今どんなタイプの議論をしているのかを認識できるようなサポートになるようなもの。

そんなツールを作るために、先ずは今まで自分達が行ってきた議論を類型化してみました。そうすると大体5つのパターンに分類されることがわかり、現場で思い出してもらうべく、「5つのS」という切り口に纏めました。

「議論というのは発散と収束の繰り返しである」、という考え方がありますね。それは原理として正しい。しかし、発散、収束という2つの言葉を繰り返すだけでアジェンダができるかというと、現実的になかなか難しい。ですので、発散、収束という考え方を、もう少しブレークダウンしたものが「5つのS」であると捉えて頂いてもOKです。
議論が始まる前に、「5つのS」を上手く使い、会議の進め方を考えてもらいたい。私が主催するファシリテーション研修では、「5つのS」を使ってアジェンダを作成するワークがあります。何度か実際に考えて使ってみるだけで、簡単にコツは掴めます。

『会議の生産性を高める 実践パワーファシリテーション』

1つ目のS ≪Share(共有)≫ 意見を出す前に、まず情報をインプットする

まず、Share(共有)です。ファシリテーションというと、「意見を出させる」ということに着目されがちですが、しっかりと意見やアイデアを出してもらうためには、「情報のインプット」が必要となる場合があります。

メンバー全員が、議論に必要となる情報を等しく有しているかといえば、そうでないことの方が多い。その会議が催された背景や目的を共有しないと、メンバーとしては、「なんでそんなことをやるの?」と、開始前から白けてしまう恐れがある。何かアイデアを考える際、更地から考えるだけではなく、先ず他業界や他社事例などを共有し、そこからアイデアを発散した方がいい場合もある。メンバーから意見を出させる前に、先ずは然るべき情報をインプットしよう、ということ。これが最初のS、Share(共有)です。

本格的な議論が始まる前に、インプットしておくべき情報はあるかな?という意識を持ち、その要否を判断するだけで、議論のクオリティは大きく高まります。そういう習慣を持って頂くためにも、ShareのSをモジュールの一つとして入れました。

2つ目のS ≪Set(定義)≫ 曖昧な定義が、議論を混乱させる

2つ目は、Set (定義)です。議論を進めていくと、曖昧な言葉がとにかく頻発します。中でも特に、「会議のお題」自体に、解釈の幅が広い、曖昧な言葉が入っていると要注意です。そのまま進めてしまうと、メンバー全員が、各々の言葉の解釈のもと、議論を進めてしまうことになります。もし、お題の中に、「解釈の幅が広くなりそう」と気になる言葉があれば、その定義をしてから進めるということが必要です。

例えば、「社内の一体感を高めるための施策を考える」というお題があったとします。このお題の中で気になる言葉は、「一体感」でしょう。それはチームワークのことなのか、会社への帰属意識なのか、部門間の協業意識なのか・・その定義によって、出すべき施策アイデアは全く異なってきます。曖昧な言葉の定義を怠ることで、必要無いアイデアを考える無駄な時間が生じてしまうのです。

そして意外と、そういう曖昧なお題に突っ込みを入れる人は少ないです。普通は、何となくわかった気になって流しちゃいます。会議の生産性を損ねないためにも、Set(定義)が、議論を進めていく重要なモジュールであるということを意識し、最初に必ずお題を見て、どの言葉を定義すべきなのか、チェックする習慣をつけてほしいと思います。

3つ目のS ≪Spread(発散)≫ アイデアを広げるためには「切り口」が必要

3つ目はSpread、つまり、とにかく沢山の意見やアイデアを「発散」する議論です。アイデアを自由に出させるだけなら、簡単そうに見えるかも知れませんが、コントロールしながら進めることは、なかなか難しいものです。
この議論を進める上で、私の研修でも時間を割き説明している、非常に重要なポイントがあります。それは、メンバーの発想を促すための「切り口」を出すということです。

例えば、この「ペットボトルのお茶を売るためのアイデアを出す」という議論があるとしましょう。「何でもいいからアイデアを出せ」というのは、切り口がない議論です。
この議論における切り口、例えば、「商品」という切り口は如何でしょうか。パッケージ、内容量、価格などに関するアイデアを、その切り口の下で検討することになります。そして、一つ目の切り口が「商品」なら、他の切り口は「広告」や「営業」、「売り場」などになるでしょう。

このような切り口をファシリテーターが出さないと、アイデアが偏ったり、抜け漏れが出てしまう可能性があります。各論から始まった議論であったとしても、議論の途中で、出てきた各論を切り口ごとに整理することも必要でしょう。これができるようになるかどうかが、リアルなファシリテーターになれるかどうかの「登竜門」の一つです。

4つ目のS ≪Solve(解明)≫ 要因仮説を並べて主たる要因を特定する

4つ目はSolve、何かの事象が生じている要因を解き明かす、「解明」の議論です。アイデアをとにかく沢山出す、「発散」の議論に似ていますが、この議論は、考えられる「要因仮説」をできるだけ出し、そこで終わらず、最終的に「主たる要因」を特定することまで行うことが大きな違いです。

例えば、「何故この商品が売れていないのか、要因を考える」というようなお題が、「解明」の議論です。先ずは、考えられる「売れていない理由」、つまり要因仮説をできるだけヌケ漏れなく、切り口ごとに抽出します。そして、出てきた要因仮説の中から、何が売れていない「主要因」なのか、ということを特定して終わりです。発散の議論と比べて、必要となる工程が一つ多いことに注意して下さい

5つ目のS ≪Select(選択)≫ 客観的な基準を以て、複数の選択肢から選ぶ

ここまでの議論で出てきた様々な要素を整理し、選択肢が見えたところで、最後に何を選ぶかという意志決定の議論が、Selectになる訳です。合意形成のときに出てくるモジュールがSelect(選択)です。複数の選択肢の中から選ぶ上で、どんな「基準」を用いるか明確になっていることが一番重要です。

明確な基準がないまま、何となく結論が出されてしまい、何となくもやもやした気分が残る終わり方ってよくありますよね。その結論に対する関与意識が薄れてしまう恐れがあります。もしその結論に反対だったとしても、ある明確な基準のもとジャッジされたものであれば、何もないよりかはよほど納得感が生まれるはずです。

そもそも、議論の目的が曖昧だと、基準も定まらない。目的が曖昧であったり、捉え方がズレていると、然るべき基準もブレてしまいます。全ては「目的」から繫がっています。逆に、目的がしっかり定められていて、言葉の定義もできていると、基準選びでそこまで迷うことはないでしょう。目的を確認する。ゴールを決める。そして曖昧な言葉を定義する。議論を始める段階における必要条件です。

ファシリテーションというのは、深みがあるスキルであり、勿論これら以外にも、問いを立てる、ズレを正す、整理するなどの様々な技法が必要ですが、最初から全てが出来る訳ではありません。先ずは「目的、ゴール、定義」の確認。これらをきちんと行う習慣を作りましょう。それだけでも、かなりロスを防ぐことはできると思います。

< 後編『会議でありがちな「5つの落とし穴」』に続く >

profile:
楠本和矢(くすもと かずや)

HR Design Lab.代表 兼 株式会社博報堂コンサルティング執行役員。
プロフェッショナルファシリテーター、ファシリテーター内製化コンサルタント、作家。
神戸大学経営学部卒。ファシリテーションを中心とした数多くの企業内研修や、クライアント企業内プロジェクトのファシリテーション業務も数多く担当するなど、名実ともに、日本トップクラスのファシリテーターという評価を得ている。
現在は、生産性向上、ファシリテーションをテーマとした各種講演や、多くのクライアント企業における人材育成のサポートと、実践知に基づく人材育成プログラム開発に注力。
主な著書に『会議の生産性を高める 実践パワーファシリテーション』『人と組織を効果的に動かすKPIマネジメント』『龍馬プロジェクト―日本を元気にする18人の志士たち』『サービス・ブランディング』など。

※本コラムはHR Design Lab.代表楠本和矢の外部取材記事を一部編集したものです

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