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〈特別対談 第2弾〉「クリエイティブな社内起業家」を生む取組~博報堂DYの社内ベンチャー制度他~

ーー社員が起業家精神を持ち、社内から新しいビジネスアイデアが生まれてくる、そんな仕組みを、他社ではどのように作り、どのように進めているのだろうか。

HR Design Lab.特別対談企画 “新規事業開発のリアルとホンネ”は、新規事業開発を実際に担当された方からお話を伺う対談イベントです。
世の中には、あっと驚く新ビジネスはたくさんありますが、なかなかその開発時のお話を聞く機会は多くありません。現場の苦労、見えざる工夫とはどういったものがあったのか。実際に新規事業開発プロジェクトの企画・推進やサービス・事業の開発に携わった方々をお招きし、ご経験やお考えを伺いながら、新規事業開発のポイントを皆様と一緒に考えていきます。
今回は、博報堂DYの社内ベンチャー制度「AD+VENTURE」他、様々な施策に関わってこられた川名様によるリアルなご経験談を伺いました。
※本対談記事は、12月14日に開催したオンライントークライブより編集したものです。

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Profile
川名 周 氏
公益社団法人日本広告審査機構(JARO)事務局長
博報堂入社以来20年間マーケティングセクションにて様々な業種の広告主に向けた新商品開発、広告戦略立案、ブランド戦略構築等に関わる。 06年よりデジタル部門に異動し、博報堂DYグループの新しいコミュニケーションモデル「エンゲージメント・リング」を発表。10年エンゲージメントプラニング局長を経て、14年より持株会社にてイノベーション創発センター長として、グループ内スタートアッププログラムを担当。18年より日本広告審査機構事務局長。 週末は、駿河台大学メディア情報学部客員教授。共著に「自分ごとだと人は動く」(ダイヤモンド社)、解説に「本当のブランド理念について語ろう」(CCC)がある。

〈聞き手〉
楠本 和矢
HR Design Lab.代表
博報堂コンサルティング 執行役員
神戸大学経営学部卒。丸紅株式会社で、新規事業開発業務を担当。外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。これまでコンサルティングプロジェクトの統括として、クライアント企業に深くコミットするアプローチのもと、多岐にわたるプロジェクトを担当。現在は、HR Design Lab.代表として、「マーケティングとHR領域の融合」をテーマに、現場での実践に基づいた様々なHRソリューションを開発提供。特に、組織の創発力強化・生産性向上を目的とした取組みに注力。
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新規事業に必要な目的とイノベーション

楠本:本日は、博報堂DYグループの社内ベンチャー制度である「AD+VENTURE(アドベンチャー)」の運営に取り組んでこられた、川名さんにお越しいただきました。現在は、公益社団法人日本広告審査機構(JARO)の事務局長をされています。博報堂DYグループのデジタル戦略の中心にいた川名さんに、いろいろとお話を聞いていきたいと思っています。よろしくお願いします。

川名さん(以下、敬称略):川名周です。よろしくお願いします。今日は、お招きいただきありがとうございます。「AD+VENTURE」の二代目ディレクターをしていました。いくつかの会社を作り、成功も失敗もしていますので、なるべく具体例を交えてお話しできればと考えています。

楠本:博報堂社内の取り組みだけではなく、得意先の取り組みについても、コンサルやアドバイザリーを務められているとお聞きしました。

川名:そうですね。大企業の社内新規ビジネス担当の方から「『AD+VENTURE』はどうですか?状況を教えて下さい」とか「今、こんな悩みがあるのですが」というようなご相談をいただくことが何度かありました。その際、情報交換をすることもあり他社の事情に関しても、多少は理解できるポジションにいます。

楠本:わかりました。そんなご経験も踏まえて、今日は、社内で新規事業を立ち上げていくためのいろいろなヒントを引き出したいと思いますので、よろしくお願いします。

川名:まず、新規事業から新しい会社やプロジェクトを作る場合に、目的を間違えてしまうと大変です。私の経験では、これからご説明する3つの目的が重要だと感じています。1つ目は「事業追求」です。これはすごく大事です。2つ目は「研修」です。そして、中長期に渡るお話にはなりますが、3つ目は「文化醸成」です。これら3つの要素はすべてあった方がいいのですが、「どれが主か」ということを、意外と最初に間違えてしまうケースが多いように感じています。

楠本:目的を明確にして、もちろん全部達成できればいいが、「何を主にして、何を従にするか」がクリアになっていないといけないということですね。

川名:そうですね。少なくとも、この制度を運営している事務局でコンセンサスが一致している必要があります。
今日はイノベーションの話だと思っています。イノベーションと言うと、全く新しいものを作らなければならないと感じる人もいるかもしれません。しかし、シュンペーターの古典的な定義ではありますが、イノベーションとは「新結合」のことです。英語で言えば、ニューコンビネーション、つまり、新しい組み合わせができれば大丈夫です。ただし、それだけだと単なる実験になってしまうので、「収益」が上がる必要もあります。結局、新規事業の創出でも、いかに新しい組み合わせを作ることができるか、ということに尽きます。全く新しいものを作るのは大変ですが、新しい組み合わせであれば、少し考えるといろいろと出てきます。そのため、あまり難しく考える必要はありません。失敗も含めていろいろな実験をした方が、成功率は上がると実感しています。

楠本:いろいろな新結合をトライアルアンドエラーで試していく中で、ひとつの解が見えてくるのではないか、ということですね。

「Jカーブ」の見極めが大事

川名:収益については、通称「Jカーブ」と言って、最初は売上が上がらず費用だけが増え続ける赤字の状態がしばらく続き、その後、右肩上がりに黒字になります。これをどう見極めるかが大切です。投資をしてすぐに黒字になるわけがないので、最初の「J」の沈み込んだ部分をどう捉えていくかです。本当に悪い場合は沈み込んだままで、資本金がなくなって終わってしまうこともありますが、どこが「J」の変曲点で上がってくることができるのかの見極めをどうするかです。赤字が続くことに対して、本人や事務局が、どれだけ我慢できるか。ダメなものはすぐに切らないとダラダラと赤字が続いてしまうので、その見極めが難しいです。新規事業をたくさん生み出すような会社は、やはり、ここの理解が大きいです。

楠本:難しいですね。ある程度、経験を積む必要があるのかもしれません。

川名:ベンチャーキャピタルのすごい人たちは、この「J」をわざとすごく沈み込ませることもあります。沈めば沈むほど上がり方も大きいので、どんどんお金を渡して、「まだ利益は出さなくていい」というようなことをやる、と聞いたことがあります。もちろん、企業は黒字を出すことが基本ミッションになり、ベンチャーキャピタルとは違うので、心配になるかもしれません。

楠本:その際の、Jカーブの変曲点の見極め方には何かコツなどあるのでしょうか。いろいろなことの積み重ねでしか難しいのでしょうか。

川名:見極めるためのポイントは3つあります。まずは、定量的にKPIを作ります。このKPIには、売上だけでなく、利益やサービスの継続率などが考えられます。次が、定性的な部分ですが、戦略の良し悪しです。そして最後が、人物像です。我々のプログラムの場合は、すぐに会社を作り社長になるので、リーダーとして、マネジャーとして、自分が背負って引っ張っていけるか、という人物像を見極めます。

楠本:さまざまな要素を見る必要があり、単純ではないですね。

博報堂の社内ベンチャー制度「AD+VENTURE」とは

川名:次に、博報堂の社内ベンチャー制度である「AD+VENTURE」についてご説明します。博報堂だけではなく、博報堂DYグループの主要な59社が参加していて、毎年1回行っています。この10年間で応募されたビジネス芽は897件になり、延べ人数で言うと1,425人が参加してくれました。

楠本:相当浸透していますよね。認知度は100%に近いのではないでしょうか。

川名:社内ではそうですね。広告会社の中でやっているので、毎年告知ポスターを作るなど、そういうことは他の会社と比べるとリソース的には有利なところもあったと思います。
そして、「今年はどうだったか」という単年度思考よりも、積み重ねが大事だと考えています。もちろん、単年度の参加者数もすごく大事なのですが、もう一方で、どれくらい積み重なっているか、という長期的な見方をしています。
流れを簡単にお話しすると、毎年期初、ゴールデンウィーク明けくらいに応募が始まり、3カ月の間にいろいろなセミナーを行います。エントリーシートの書き方や、どうやって事業を作るのかなどのオープンスクールを行い、8月末の夏休み明けまでに提出してもらいます。

楠本:いきなりエントリーシートの提出ではなく、いろいろなセミナーや説明会があるのは、入り方としてすごくいいですよね。

川名:エントリーシートの書き方がわからないから諦める、という人が出てしまうのはもったいないので、芽を育てよう、ということで行っています。たとえオープンスクールを受けて、今年は書けなくても、来年につながればいいのではないか、と大きく考えています。
そして、まずは一次審査を行います。ここでは、5分間でプレゼンを行ってもらった後に、5分間の質疑応答を行います。5分間という非常に短い時間でプレゼンを行うのは大変なのですが、そこで原石を見つけます。また、その後の5分間の受け答えも大事で、人物像などを見ています。

楠本:一般的にプレゼンというと、短くても15分や30分という気がするのですが、5分にした狙いは何があるのでしょうか。

川名:応募者がたくさんいるため、運営的に時間の問題があり、5分にしました。この5分で計画の骨格を見て、10組ほど選んでいます。
一次審査を通過すると、「ガイド」と言って、グループ内の新規事業経験者やAD+VENTUREの卒業生が専門メンバーとしてつきます。そして、事業計画書の書き方講座に出てもらい、3カ月ほど週1回は必ずミーティングをしながら、事業計画書を作ってもらいます。フォーマットに沿って、戦略の部分はパワポで、資本金がいくら必要でJカーブがどうなるという数値上の5カ年計画はExcelで作ってもらいます。これを30分でプレゼンしてもらい、審査します。

楠本:この時の判断基準として、人物像はどの程度のウェイトを占めますか。

川名:事業計画書と人物の二軸で見ますが、人物像のウェイトは50%と言ってもいいかもしれません。人物も事業計画書のプランも素晴らしいという第一象限はもちろんいいのですが、事業計画書と人物のどちらを取るかというと、人物を取った方が強くなると思います。私は半分ですが、人によっては「ほぼ人物重視ですよ」という人もいます。

楠本:線引きはいろいろあるにしても、やはり人物は重要だということですね。ガイドの方も大変ですよね。

川名:ガイドにも負担がかかります。ただ、ガイドをするという経験も教育になるので、この制度を続けています。
二次審査を通過したものは、テストマーケティングに進みます。オフィスの近くの別のビルにインキュベーションセンターを作り、そこに籍を移していただきます。KPIは四半期ごとで厳しくしていますが、これを約1年間行います。環境の作り方は大事で、本社と同じビルにいると本社と同じビジネスモデルから抜けられない、ということで別のビルに移ってもらいます。

楠本:事業化後は部署を異動し、新規事業に専念するということですが、エース級を引き抜かれた方の気持ちというか、調整が大変だと思うのですが、いかがですか。

川名:社長直轄のプロジェクトなので人事制度上は問題ないのですが、たしかに抜かれるのは大変ですよね。そこで、「長期の意味でのメリット」をお伝えしています。社内ベンチャーは失敗することも多く、1年後にはもとの部署に戻ってくる可能性があります。その時に、社内ベンチャーに挑戦し、社長として頑張った経験が、もとの部署に戻ってきた時に必ず活きるはずだとお伝えします。このあたりの調整も事務局の大事な仕事となります。

社内ベンチャー制度を成功させるためのポイント

楠本:社内ベンチャー制度を成功させるためのポイントを教えていただけますか。

川名:個人的な見解としては、「誰でも応募が可能」なこと、「上司のコンセンサスなく参加できる」ので気兼ねなく応募できること、「エントリーシートが事業計画ではなく事業アイデアベース」なので応募の入り口が広い、というのがポイントだと思います。
また、通過すると、「一定期間はフィジビリティスタディを遂行」でき、「いきなり社長になれる」ことも大きいのではないでしょうか。「事業が潰れても出向元に帰れる」ので、ローリスクだということも大事です。
他には、「落選してもフィードバックがもらえる」ということをすごく大事にしています。この制度は、“高校野球”のようにほとんどの人が敗者になってしまいます。だからこそ、敗者も含めて、イノベーティブな文化が伝わるように、非通過者全員に、どこがダメだったのかといったことをメールで返します。場合によっては会ってお話します。

楠本:選りすぐりのものをピックアップして事業を作る、ということが第一義ではあるけれど、教育も重要視されているということですね。

川名:そうですね。一次審査を通過した10チームも、例年は2〜3チームしかテストマーケティングに進めません。ここでも7〜8チームは敗者になります。しかし、「3カ月間、事業のプロと並走」し、財務計画や事業計画を書いた経験が何かの役に立つはずです。このように失敗した人たちが、もとの部署に戻って活躍することが多くあります。

楠本:いろいろな会社の取り組みのコンサルやアドバイスをされている中で、どういったお悩みが多いと感じますか。

川名:「応募が少ない」というのはよく聞きます。そういった場合、まだ始めたばかりなのであれば、認知が足りない可能性が高いので、例えば社内宣伝ツールを作った方がいいでしょう。一方、始めてからしばらく経過していて、応募者が減ってきている場合は、再活性化する方法を考える必要があります。例えば、プログラムで成功者があまり出ていない場合は、一旦プログラムを止めて、新しい制度にした方がいい可能性もあります。
AD+VENTUREがオープンスクールを始めた理由は、アンケートの調査結果でした。当時、いつかは応募したい人はグループの25%ほどいました。それだけ潜在層がいることがわかったので、その年に限らず、ここ何年かで応募したい人たちのためにも、オープンスクールを始めて、今でも続いています。

楠本:新規ビジネスの未経験者が多い場合、「ビジネスモデル」自体が思いつかないことも考えられるのではないでしょうか。

川名:そうですね。いろいろなプロが集まって、ニューコンビネーションができるといいのですが、実際にはそんなにうまくいかないですよね。ビジネスモデルが出ないところには、ビジネスモデルについての教育を行います。ただ、事務局があまり言い過ぎると、メンターがリーダーというか、私たち事務局の事業になってしまいますので、難しいところではあります。

楠本:最後に、このような社内ベンチャー制度をこれから作っていきたい、あるいは、今、取り組んでいるがなかなかうまくいかない、という人たちに向けて、何かメッセージをいただけますでしょうか。

川名:始めてみる、ということが大事です。ただ、本当のアイデアコンクールだけだと絶対にうまくいきません。始める方は、制度をよく考え、最初にお話しした主目的をしっかり定めてやっていただきたいです。そして、いろいろな人を巻き込んで行う方が成功確率が上がります。人事の理解が得られないと、人は動かせないですし、なるべく高いポジションの応援者がいた方がやり易いです。
もうひとつは、最初は、事務局機能は外部に依頼してもいいのではないか、ということです。ただ、その時に丸投げだとノウハウが蓄積できません。外部の人と一緒に協力しながら、自分たちがそこで学んでいくという姿勢が大事です。

楠本:今日は本当にありがとうございました。

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