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〈HR RUNNERS vol.9〉オンボーディング施策 ~博報堂が社内で行う「On Board School」の取り組み~

ーーコロナ禍を機に在宅ワークが定着する中で、博報堂が行っているオンボーディング施策 「On Board School」とは。

「HR RUNNERS」は、HRの前線を走る第一人者からお話を伺う対談イベントです。第9回のテーマは「オンボーディング施策」。かつてのように、簡単に人を採用することが出来ない時代。更には昨今のコロナ禍を機に、在宅ワークが定着する中で「オンボーディング」に着手しないと、せっかく採用した社員の定着・戦力化に時間がかかり、結果として離職してしまう。そんな状況がある今、博報堂で行っている「On Board School」はどういったものか、人材開発戦略局の野村秀之氏をお呼びし、具体的な取組内容や、お考えを伺いました。
※本対談記事は、12月7日に開催したオンライントークライブより編集したものです。

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Profile
野村 秀之 氏
株式会社博報堂 人材開発戦略局 全社能力開発グループ GM
商社を経て、1990年博報堂入社。営業職として7年、インタラクティブ職を経て、環境省クールビズ事業やソーシャルビジネス開発を手がけた。2015年より人材開発戦略局に配属。現在は中途入社者向けプログラム、グループ会社向けプログラムを担当。

〈聞き手〉
楠本 和矢
HR Design Lab.代表
博報堂コンサルティング 執行役員
神戸大学経営学部卒。丸紅株式会社で、新規事業開発業務を担当。外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。これまでコンサルティングプロジェクトの統括として、クライアント企業に深くコミットするアプローチのもと、多岐にわたるプロジェクトを担当。現在は、HR Design Lab.代表として、「マーケティングとHR領域の融合」をテーマに、現場での実践に基づいた様々なHRソリューションを開発提供。

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オンボーディング施策を始めた背景と人材戦略

楠本:本日は、株式会社博報堂のオンボーディングプログラムの責任者を務める、人材開発戦略局 全社能力開発グループ グループマネジャーの野村秀之さんにお越しいただきました。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

野村さん(以下、敬称略):博報堂の人材開発戦略局の野村と申します。よろしくお願いします。博報堂に入る前は、小さな専門商社で営業をしていました。博報堂に入社した30年前の当時、業務の幅が前職の倍以上になって驚き、また、研修という研修がなくて苦労しました。当時は「ToDoリストを書くだけで精一杯」というような状況でしたので、中途入社の人の気持ちも少しはわかるのではないかと考えています。

楠本:では早速、博報堂のオンボーディング施策についてのご説明をお願いします。

野村:弊社は歴史的に新卒採用が中心で、毎年百数十名が入社しており、新人教育にものすごく力を入れている会社でした。ところが、2016年ごろから中途入社の採用が増え始め、年間200人以上が入ってくるようになりました。しかし現場は忙しく、たくさん入ってきた人たちの面倒を丁寧に見ることができず、「定着不全」が現場で起きてしまいました。そこで、これからご紹介するオンボーディング施策を始めました。
博報堂の人材戦略には3つのキーワードがあると思っています。まず中心にあるのが「粒ぞろいより粒違い」という言葉です。粒ぞろいだとユニークなアイデアは生まれないので、私たちは粒ぞろいではない会社だ、ということです。次に、そういう人たちが集まって、チームの相乗効果でアイデアを生み出すという「TEAM文化」です。そして最後が「別解体質」です。博報堂の中期経営計画にも「別解」という言葉が出ており、これが「あ、なるほど。そういう考え方があるのか」という発想を生み出す人材を育てるためのポイントだと考えています。
これらは明文化されていないものの、なんとなくみんな、博報堂のカルチャーにあたるものだと感じていると思います。

楠本:「粒ぞろいより粒違い」というのは、私も聞いたことがあります。通常オンボーディングでは、カルチャーの浸透やカルチャーの同化を目指すと思いますが、「粒ぞろいより粒違い」がカルチャーだと、各々がさまざまなカルチャーを持ってしまうという危惧はないのでしょうか。

野村:粒違いの人たちがチームを組むときに重要なのが、「誰がどんなことを言っても受け入れられる文化」です。そのため、「いろいろな人がさまざまな意見を言うことが博報堂っぽい」ということになります。

楠本:そういう文化、僕も大好きです。中途入社の人たちには、「うちは『粒ぞろいより粒違い』だ」と言葉で伝えるのか、それとも、間接的な方法でカルチャーを理解してもらうのか、どのように伝えているのでしょうか。

野村:ポイントは2つあります。1つは、この「粒ぞろいより粒違い」や「TEAM文化」というものを、社長から直接言ってもらいます。そしてもう1つは、具体的にどうすればいいのか、どういうことなのか、という理解を深めてもらうために、カリキュラムの中に少しずつ忍ばせて伝えています。

楠本:トップが自ら言葉で語り、それを使って考える機会をいろいろなところに散りばめているわけですね。

 

オンボーディング施策構築に当たっての前提

野村:人材戦略を踏まえて、我々が行っているオンボード施策の前提となる考えについてお話しします。まずは、「ウェルカム感の醸成」です。年間200人ほど中途入社し、2日ほどの研修で現場に送り込むのではウェルカム感を感じてもらえないと思います。そこで、ウェルカム感を醸成するために、「入社おめでとうございます」という言葉は使わず、「入社ありがとうございます」と言います。

楠本:そういう言葉ひとつ、表現をとってみても伝わるものってありますよね。「入社ありがとうございます」以外に、ウェルカム感を醸成するために行っていることはありますか。

野村:毎月懇親会を行っています。一昨年の4月には130人ほど入社していただき、さすがに1回で全員の懇親会を行うことはできなかったため、7人ずつのランチ会を毎週行いました。みんなで中華の卓を囲みながら「ありがとう」と丁寧にお伝えしました。
次が「HAKUHODO WAYの理解」です。中途入社の人たちがどんな違和感を持っているのかを聞くと、打ち合わせで本題と関係のない話を始めたり、結論の先送りを平気でしたりということに違和感を持っていることがわかりました。それは、会議を行う目的が違うので当たり前です。他の会社では物事を決めるために会議をしますが、博報堂では新しいアイデアを生み出すために行っています。こういった自社特有の「HAKUHODO WAY」を理解してもらいます。

楠本:こういった「御作法」で悩むことって結構ありますよね。これを明文化したり、オンボーディングで伝えたり、誰かの体験談で語ったりするということはすごく重要だと思います。

野村:「同期のつながり」というのも博報堂のカルチャーです。新卒入社の場合は、名刺代わりに「何年入社」という言い方をします。2005年入社だと「05(ゼロゴ)入社の○○です」というように。ところが、中途入社の場合は通常そういったものがありません。そこで、「2019年に中途入社した人たちは『キャリア同期』ですね」という言い方をします。「キャリア同期」で自由に意見交換できるような場として、「Office 365」の「Teams」という機能を使っています。
次が「受け入れ側の理解促進」です。我々がどういう研修やプログラムを行っているのかを現場にしっかりとお伝えします。そして、現場に配属する際には迎えにきていただく、というような些細なことでも一緒に気を遣っていただくようにして、受け入れる側の現場とも必ずコミュニケーションを取るように心がけています。

 

月次導入研修で先輩から「博報堂の泳ぎ方」を聞く

楠本:それでは、博報堂で実際に行っているオンボーディング施策について、ひとつひとつ聞いていきたいと思います。

野村:弊社が行っているオンボーディング施策を4つご紹介します。
1つ目は、以前から行っていた「月次導入研修」です。以前は2日間で行っていましたが、現在は3日間に延長しています。まず、「役員によるウェルカムメッセージ」があり、会社の歴史や今後について、業界の考え方、行動規範や情報セキュリティ、社内システム、人事制度、福利厚生などについてお話しします。その後、ご自身のキャリアのための自己理解をしてもらい、博報堂でどういうことをしたいのかということを確認します。
そして、「先輩セッション」、「H(博報堂)、MP(博報堂DYメディアパートナーズ)の泳ぎ方」と題して、中途入社から数年経過している先輩を囲んで、質問したいことを率直に聞ける場を設けています。
また、1日目の夜には必ず懇親会を行っています。現在はコロナでできないのですが、ランチ会などを行い、リラックスしてもらうようにしています。

楠本:「H、MPの泳ぎ方」というのはキャッチーですね。具体的に何をしているのでしょうか。

野村:5〜6人のグループでひとりの中途入社の先輩を囲んで、聞いてみたいことを率直に質問する場です。我々マネジメントサイドが聞かない方がいい話もあるはずなので、実は、我々はこれには入らないようにしています。評価のされ方や経費の使いやすさなどについての話なども出るようです。

楠本:そういった「御作法」を、建前ではなく生声で顕在化するというのはいいですね。

 

博報堂ならではのユニークなプログラム「On Board School」

野村:2つ目は「On Board School」というプログラムで、年に2回開催しています。11月から3月に中途入社した人たちには4月から3カ月間、残りの半年に中途入社した人たちには10月から3カ月間、隔週の金曜日に実施します。プログラムは内容により必須と任意で分けています。知識のインプットだけではなく、定期的に同じメンバーが集まって、「キャリア同期」とつながることも目的のひとつです。
配属後に現場に出て行った後も様子を見ることができるので、我々としては観察の場としてもすごく大事だと考えています。顔つきを見たり、お昼休みに声をかけて「最近どう?」と聞いてみたり、仕事の中身を共有する場を作ったりしています。
また、このプログラムを通して博報堂へのロイヤリティを持ってもらえるようになるといいなと思っています。

楠本:ロイヤリティ醸成も大きな重要なテーマですが、どのようなアプローチで「博報堂っていい会社だな」と思わせるのでしょうか。

野村:「博報堂ならではのユニークなプログラム」を経験してもらうことだと思います。求人広告にも「経験不問。入社後に学べる」と書いてあります。我々にはこれがプレッシャーでもあるのですが、「博報堂ならではの学び」というのは、他社にはなかなかないものではないでしょうか。博報堂に入ると何が学べるのかということを、入社前にしっかりと伝えることも重要です。

楠本:なんとなくスキルが高まる、とか、なんとなくキャリアのステップが描かれている、ということではなく、具体的にこんな研修が受けられる、という「博報堂の教育体系」をしっかり伝えることが必要だということですね。

野村:続いて、「On Board School」の具体的なプログラムについてお話しします。博報堂の武器のひとつとして、「生活者発想」が挙げられます。その基礎編として、我々、博報堂生活総合研究所が持っている、いろいろな生活者のデータに触れてもらいます。次に実践編として、自分たちで実際に生活者を見に行って聞き取りを行い、フィールドワークを行います。
そして、「組織について」というプログラムがあります。広告会社は組織が非常に複雑で、どこで何をやっているのかがわからないと言われます。そのため、それぞれの組織の役割だけではなく、経営計画とどのように連携しているかを伝えることで、理解を深めてもらっています。
そして、新人研修でも行っている「職種紹介」というプログラムを行います。新人の場合は様々な職種の講師の話を聞き、自分がどんな職種を目指したいかを考えますが、中途入社の場合はすでに職種が決まっていますが、他の職種の人と仕事をする場合の付き合い方や、どのようにコミュニケーションを取るといいか、ということを理解してもらいます。中途入社の人から、「打ち合わせの際に、他部門の人たちとどのように話したり対応したりしたらいいかがわからない」という声があったため、このプログラムを作りました。

楠本:御作法というか非言語の暗黙知がオンボードの阻害要因となるため、そういったことを赤裸々に、いろいろな人のさまざまな視点から語るということが、博報堂のオンボード施策のひとつのコアなのだと理解しました。

野村:そうですね。他には、先ほど少しお話しした「HAKUHODO WAY」に似ているのですが、「博報堂の打ち合わせ術」というプログラムがあり、打ち合わせの要についてお話しします。
次の「業務レビュー」では、入社から今まで行ってきたことをお互いにシェアします。そして、それを聞いて、お互いにいいと思ったことを付箋に書いて相手に渡します。現場で褒められることがあまりなかった人も、お互いに褒め合うことでやる気が湧いてきます。

楠本:「キャリア同期」同士で、悩みや成果を吐露し合うというのはいいですね。

 

OJTトレーナーガイダンスとコアスキルプログラム

野村:3つ目のオンボーディング施策は「OJTトレーナーガイダンス」です。OJTトレーナーの人たちに、対応方法などのガイダンスを行い、みんなで集まってグループワークを行ってもらいます。このガイダンスは、OJTが始まってから3週間から1カ月後に行います。まずはガイダンスなしで挑戦してもらうことで、悩みや課題が生まれ、その後のガイダンスにより実感が湧いてきます。トレーナーは、中途入社者の年齢や役職を問わず全員につくのではなく、現場の判断で、つける必要がない場合はつけていないです。

楠本:そこは事業部の事情もあるので任せてしまうということですね。最後の施策は何でしょうか。

野村:最後のオンボーディング施策は「コアスキルプログラム」です。博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの社員が、職種に関係なく必ず備えておくべき能力、と位置付けたものが3つあります。新入社員が1年目、2年目、3年目に必ず通る道なのですが、中途入社の人たちにも同じように体系的に時系列に受けられるように、毎月このプログラムを開催しています。
まず1つ目は「KJ法」です。「幸せとは何か」というテーマの50枚から100枚の写真を見て、その写真が語っている本質をタイトルにします。写真を説明してはいけません。そして、本質を束ねて、本質同士を重ねていくと新しい価値が見えてくる、というのがKJ法です。
2つ目は、入社2年目に必須で学ぶ「インサイト&コアアイデア」です。いろいろなCMを見て、デコンストラクションを行い、そのCMのコアや人を動かす力はどこにあるのか、ということを展開していきます。そして、クリエイティブブリーフを作り、自分たちでプロモーションを組み立てます。

楠本:インサイトやコアアイデアというのは博報堂の共通言語と言えそうですね。

野村:こういうことを身につけておくことで、普段の生活の中で目にするもののインサイトを考えるクセを身につけることが大事だと思います。
そして3つ目は「コピーライティング教室」です。キャッチコピーを考えるのではなく、物事の本質を捉え、言葉にする練習です。まずは90分の全体講義を受け、その後、各教室を15名から20名に分け、実際にコピーを書きます。これを3回繰り返します。

楠本:こういった新入社員のための研修を、中途入社の人たちに行う理由は何があるのでしょうか。

野村:KJ法というのは、現場で実際に使うことはほぼありません。しかし、博報堂の中で共通言語としてKJ法が使われているのに、それを使ったことがないと、中途入社が非常に気後れする材料になってしまいます。
また、年齢が上がっても仕事内容が変わったり、最近だと地方自治体へ出向したりすることもあります。そうすると、営業経験しかなくても、自治体の人から見ると「博報堂から来ているからコピーくらい書けるだろう」と思われます。

楠本:たしかに、博報堂パーソンへの最低限の期待値というのはありますよね。

野村:最近だと、テクノロジー系の中途入社が増えています。しかし、テクノロジーだけだと片手落ちなので、そういう人たちにこそ積極的にコピーライティングを学んでもらっています。システムもコピーも両方わかれば最強の人材になります。

 

博報堂のオンボード施策の今後と皆様へのメッセージ

楠本:最後に2つ問いを立てたいと思います。まず、今後の博報堂のオンボーディングはどこへ向かっていくのか、また、どんなことに取り組んでいこうと考えているのかをお聞かせください。

野村:今まで行ってきたのは、すでにあるプログラムを一律に提供するということでした。しかし、これからはもっと個に寄り添った対応をしたいと考えています。そういった場合、集合研修が必ずしも正解とは思っていないので、何かいいやり方がないか模索したいと考えています。
また、今までは「博報堂に慣れてもらう」ためのオンボーディングでしたが、さまざまなバックボーンのある人材が中途入社してくれているので、そういう人たちが戦略的な人材になる、光らせるということにチャレンジしていきたいです。

楠本:そこまでやって、初めて本当の意味でオンボーディングが完成する、という感じがしますね。
では、最後の問いになりますが、これからオンボード施策に取り組もうとされている方に向けて、熱いメッセージをお願いします。

野村:今日お話ししたオンボード施策は、私が全部企画して作ったわけではなく、人材開発局の4〜5人のメンバーみんなで考えて、知恵を出し合って作ったものです。ひとりで抱え込むのではなく、いろいろな人を巻き込むことが大事だと思っています。熱い想いが伝われば人が動き、きっと会社も変わる、そんな風に思っています。

楠本:今日は本当に貴重なお話をありがとうございました。私もとても勉強になりました。

 

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