1. HOME
  2. コラム
  3. 〈HR RUNNERS vol.5〉エンゲージメントの高い職場づくり

〈HR RUNNERS vol.5〉エンゲージメントの高い職場づくり

ーー「私は何故この企業で働くのか」誰もが一度は考えるその問いに、今、明確に答えられる人々はどれくらいいるでしょうか。

HR RUNNERSは、HRの前線を走る第一人者からお話を伺い、「べき論」だけではうまくいかない現場のリアルとホンネについて考える対談企画です。第5回のテーマは、「エンゲージメントの高い職場づくり」。企業理念の位置づけ、企業の価値観と社員一人ひとりの考え方との両立、人事部からのアプローチに必要な事業部的な視点など、徹底した倫理観をもって社員のエンゲージメントを高める株式会社ラッシュジャパンから、人事部長である安田雅彦氏をお招きしてお考えを伺いました。
※本対談記事は、9月24日に開催したオンライントークライブより編集したものです。

——-

Profile
安田 雅彦 氏
株式会社ラッシュジャパン 人事部長
愛知県名古屋市出身。1989年南山大学卒業。西友にて人事採用・教育訓練を担当後、子会社出向の後に同社を退社。2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年よりラッシュジャパンにて現職。

〈聞き手〉
楠本 和矢
HR Design Lab.代表
博報堂コンサルティング 執行役員
神戸大学経営学部卒。丸紅株式会社で、新規事業開発業務を担当。外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。これまでコンサルティングプロジェクトの統括として、クライアント企業に深くコミットするアプローチのもと、多岐にわたるプロジェクトを担当。現在は、HR Design Lab.代表として、「マーケティングとHR領域の融合」をテーマに、現場での実践に基づいた様々なHRソリューションを開発提供。特に、組織の創発力強化・生産性向上を目的とした取組みに注力。

——-

ラッシュが大切にしている5つのこと

楠本:本日は、株式会社ラッシュジャパンの人事部長である安田雅彦様をゲストにお迎えしました。まずは、御社で行われているお取り組みや運営についてご紹介いただきたいと思います。

安田さん(以下、敬称略):本日のテーマである「エンゲージメントの高い職場づくり」ということで言うと、我々は「自分らしく働く」というものを掲げています。これは、「倫理観」や「信頼関係」というのがベースになっているので、まずはそのお話をさせていただきます。

最初に、我々ラッシュが組織として、ブランドとして大事にしている5つのポイントです。
1つ目は「FRESH」です。「新鮮な原材料でお客様に商品をお届けする」という意味のこのフレッシュは、単純に原材料という意味だけでなく「考え方」などいろいろな意味でのフレッシュを含んでいます。
次が「COSMETICS」。「コスメティックビジネスで世の中に変化を起こしていく」という我々が大事にしているポリシーで、社内では「コスメティックレボリューション」とよく言っています。

そして「INVENTION」です。「常に革新的でラッシュが作るまでは見たことがない商品」を作っていこうという考えです。
次は我々が一番大事にしている「ETHICS」。倫理観のことで、全ての判断基準になるものです。「倫理観と利益の間で悩むことはラッシュでは絶対ない。なぜなら、常に倫理観を優先するから」という態度で我々は経営を行っています。例えば、ラッシュは中国に1店舗も出店していません。中国で販売を行うには動物実験を行うことが義務付けられていますが、動物実験は我々の倫理観に合わないので、「中国では絶対にビジネスをしない」ということを貫いています。このように、ブランドの中心に「ETHICS」を置いています。
最後は「CAMPAIGN COMPANY」です。「世の中のあらゆる課題を訴えていく」ためには、お客様に伝えたいメッセージが伝えることが大切で、その結果として利益が上がるという考えです。例えば、セクシャルマイノリティのためのキャンペーンで「GAY IS OK」というストレートなメッセージの石鹸を作り、店頭でそれを販売し、セクシャルマイノリティの権利を訴えました。

楠本:非常にスタイリッシュに提案されているので、受け入れやすいですね。

 

ラッシュの信念

安田:これら5つの大切にしていることの根底にあるものは「ラッシュの信念」です。創立者のマーク・コンスタンティンがラッシュを立ち上げる前に、化粧品の通販ビジネスで大失敗をしました。そして、どん底から立ち上がる時に、「こういうビジネス・ブランドにしたい」と書き綴ったものが「ラッシュの信念」です。
またラッシュでは、「本社」ではなく「サポート」だと言っています。通常は、社長が一番上の頂点にいるピラミッド型の組織になると思いますが、ラッシュの場合は逆で、顧客が一番上にいます。お店でお客様に対してラッシュの素晴らしい価値観を提供するにはどのようなシステムが必要か、どのような人事制度があったらいいか、どこにお店がほしいか、と逆の発想をします。そのため、「本社が考えた戦略を現場が実行」するのではなく、「現場でラッシュが実現したい価値の世界を行うためにサポートとしてオフィスや製造が存在」します。ピラミッドを逆にして、我々のビジネスになぞらえて「バスタブ型組織」と呼んでいます。

次に「上司の居ない組織」についてですが、小売業の場合、普通は100店舗を超えてくるとエリアを7つくらいに分けて○○エリアマネジャーや地区長などを配置します。しかし、ラッシュでは店長に上司はいません。店長たちが直接人事やIT、経理、店舗開発などとつながります。また、ラッシュは販売促進のための広告を打ちません。「店舗は最大のメディアだ」という考え方で、上からの指示ではなく、店舗で店長や働く人のオーナーシップで自分たちの言葉で伝えない限りお客様には伝わらないと考えています。

楠本:なるほど。中間にそういう人が入ることによってオーナーシップが欠如してしまわないように、まずは体制から考えたということですね。

安田:はい。私も最初に聞いたときには驚きましたが、今はそれがエンゲージメントの向上につながっていると感じています。
次に「Direction < Inspiration」ですが、指示で動くのではなくインスピレーションで動いていくことを目指しています。1年に数回、全世界の店長をイギリスに集めて、ビッグサイトのようなところで店長会議を行っていました。そこでは、今ラッシュが気にかけていること(例えば人権や飢餓、地球環境、難民問題など)に対して世の中に訴えている団体や活動家たちがブースを作ります。そこを店長たちが回り、今ラッシュが気にかけていることやその背景を学びます。自分たちの頭で考えて、インスピレーションを得るためのミーティングです。

楠本:単なる学びではないのですね。

安田:「やらされ感にしない」という考え方を大事にしています。
もう少し実務的なお話をすると、人事制度についても倫理観を大事にしていて、「世の中に小さな変化をいっぱい起こして世の中をハッピーにしていく」という考えがあり、そのためには、「まずは働いている人からハッピーになろう」という認識があります。あらゆる差別を無くしていくという意味で、定年を無くしました。会社からの一方的な人事異動もなく、ポジションには自分から手をあげていく形です。また、雇用区分で格差を付けることはせず、有期雇用を本人が希望しない限り、基本的に全員が正社員です。
そして採用活動についてですが、応募する人と雇う側というのは対等であると考えています。「ラッシュで働く魅力」を積極的に提示し、それを良いと思ってくれる人に入ってもらうという姿勢です。今はコロナの関係で行っていませんが、去年までは「リクルーティングパーティー」という名前で集団ロールプレイングを行ったり、商品に触ってもらったり、ディスカッションをしたりして、採用機会としてのラッシュを皆さんに感じ取ってもらうということを積極的に行っていました。

楠本:採用前からオンボーディングを行っているというのはすごいですね。

 

フィードバックカルチャー

安田:次に「Freedom of Movement」ですが、イギリスのEU離脱が話題になった頃、同時にシリア紛争から逃れたシリア難民に関するニュースが世界中で注目された時には、「全ての人々は自由に行き来をする権利があり、それを楽しむ自由がある」という内容を、ブランド創立以来変わることのなかった「ラッシュの信念」に一文を加えました。この発想は先ほどお話しした、一方的な人事はしないということにもつながります。未経験であっても空いているポジションには手をあげることができます。これは創立者の言葉ですが、「入社する10年前には想像もつかなかったポジションに就いて成長している」というのがラッシュです。
次に評価ですが、これは日々ブラッシュアップしています。実は3年ほど前に、MBOのような目標管理は辞めました。MBOシートを書くことには時間がかかり、ひとつの仕事になってしまっているということが理由です。その代わりに「インパクト」という名前で、周りにどのくらい影響を与えたかということを半期ごとに行っています。ステークホルダーのフィードバックを踏まえ、最終的には上長が評価をつけています。

楠本:非常に興味深いですね。「どれだけインパクトがあったか」というのはすごく定性的ですが、どのように見える化しているのでしょうか。

安田:「評価基準がよくわからない」ということを避けるために、レビューミーティング(評価調整会議)を行い、一人ひとりの評価についていろいろな人がディスカッションします。俗に言う甘辛調整のようなこともたくさんの時間をかけて行っています。レビューに徹底的なディスカッションの時間をかけることで公平性や透明性を担保しています。

楠本:つまり、「質の高い対話」がキーワードとなりそうでしょうか。

安田:そうですね。「フィードバックカルチャー」もとても大事にしていて、4年ほど前から半期に1回、ステークホルダーフィードバック、360度フィードバックを行っています。フィードバックは記名式で、言いたいことをきちんと敬意を持って言うようにしています。このフィードバックカルチャーを機能させるために我々が大事にしているのが「信頼関係」です。信頼関係の説明として「自己理解・他者理解・他者受容を技術と知識で」とありますが、我々はMBTIを使って、まずは自分自身や思考パターンを理解することから始めます。そして、自分と違う他者というものをしっかりと理解して、それをどのようにコミュニケートしていくかということをきちんとトレーニングします。信頼関係というものを「相性」だけで片付けるのではなく、きちんとした理解とトレーニングで維持する努力を行うことが大切です。良好な人間関係を維持する努力がベースにあるからこそ、フィードバックカルチャーも機能すると考えています。

楠本:相性で片付けてしまいがちですが、「維持する努力」というのはすごく良い言葉ですね。

 

現実的なことばかり言うと価値観は浸透しない

楠本:御社の価値観やカルチャーは非常に特徴的ですが、どのような方法で浸透させているのでしょうか。

安田:「そうは言っても」とか「これはこれ、あれはあれ」とか「現実的には」などと言い出すとうまくいかないと思います。人事でお困りの方は多いと思うのですが、これは人事に限った話ではなく、ビジネスのど真ん中に置く必要があります。例えば先ほどお話しした「倫理的である」ということは、単に応接室の壁に掲げるだけではなく、店頭で実現し、お客様にお伝えしています。ビジネスの根幹にそれを掲げているので、組織文化と直結しています。LGBTの話をすると、「世の中いろいろな家族の形があっていい」と言いながら、相変わらずCMなどでは昔ながら夫婦の形を延々と流し続けています。そういうことに対して疑問を持たないのはおかしいのではないでしょうか。

楠本:言っているだけではなく、どこまで徹底できるのかということでしょうか。

安田:そうですね。例えば、お店でプラスチックを使わないと言っているのであれば、オフィスにも絶対ペットボトルは持ち込まないよね、というような粒感の大きい話も小さい話も徹底して行っていくことです。
「それって世の中的にはアリかもしれないけどラッシュ的にはナシ」とか「ラッシュ的にはいけるんじゃない?」という会話は結構あります。

楠本:「世の中的にはアリだけどラッシュ的にはナシ!」というのは良いですね。これはカルチャーが浸透している完成形にも思えました。常に健全なる自己否定精神というか、現場を疑うことが重要なのではないかと感じました。

安田:「自分たちの価値観とは何か」というディスカッションを「シンクタンク」という名前で行ったりしますが、その時に「いやいや価値観もわかるけど売り上げはどうなってんだよ」というようなことを言う人がいると破綻してしまいます。

楠本:それはカルチャーから外れたということですよね。つまり、クリアなビジョンや目指したい世界があるからみんなそこに向かう。そして、自主性を重んじるからみんな考える。しかし自主性だけではダメで、自分で考える力が必要。お話を聞いていて、この3点セットなのではないかと感じました。

安田:全くその通りです。ゴールはないのでずっと続ける必要があります。ラッシュも5年前は、「オーナーシップとは丸投げではないのか」という批判的な見方もありました。我々サポート部門もよくわかっていない部分があり、「本来どうあるべきか」ということを試行錯誤しながら今日に至っています。大事なのは自分たちで考えること、しかしやりたい放題にならないように一貫した価値観を持つということ、そして考える機会を作って育むということです。それにはフィードバックカルチャーが欠かせません。

楠本:フィードバックをしっかり行えている会社というのは少ないと思うのですが、機能させるためには何か特別なスキルが必要なのでしょうか。

安田:フィードバックトレーニングというのを行っています。また、フィードバックの前提になるのが敬意ある信頼関係なので、「努力して維持する良好な人間関係のトレーニング」というのは時間をかけて行っています。自分自身や自分と他者の違いを理解するために、MBTIという思考タイプを16通りに分類する方法を使っています。

楠本:御社の人材育成の原動力はフィードバックではないかと感じましたが、フィードバック以外に、社員の心をつなぎとめ、仕事に誇りを持たせ続ける原動力となっているものはあるのでしょうか。

安田:良い会社とはどういう会社なのかと言うと、自分のキャリアを振り返ってみて、その会社にいて良かったと思えることだと、私は考えています。マーケットで言うと、「ラッシュの人なんだ」というマーケットバリューをつけてくれる会社や、ラッシュに入ったことでわからないことがわかるようになる、そういう意味での「ライフチェンジブランド」でありたいと思っています。結局、自分の意思でこの会社で働く、そしてそこには成長機会がある、ということがエンゲージメントを生んでいるのではないでしょうか。

楠本:御社では倫理を掲げていますが、利益のことを考えると、カルチャーに比べて難易度が高いのではないかと思います。「売れるものを売ろう」「いや、でもそれはラッシュ的ではない」というような葛藤はないのでしょうか。

安田:まさに我々が日頃の経営で話していることですが、「利益を上げるために信念に反することをする」ということは絶対にしないです。それをしてしまうとラッシュを辞める人が出てくると思います。我々にとっては倫理観とはそういうもので、オペレーションやビジネス戦略、マーケットに対するアクセスをどうするかなどに先進しています。

楠本:少し前にバスタブモデルのお話がありました。リサーチの部署があるのではなく、あくまでもスタートラインは現場で、現場の人の感性やお客様からの情報収集があるから成立するというのは高度だと感じましたし、感性も非常に重要な気がしました。

安田:例えば、小売業でお客様の動きを知るために最近ではSNSが重要ですが、そういうことをちゃんと言えるかどうか、単純に目に見えている動きだけではなく、世の中のコマースの変革に対する興味がないと困ります。店頭に立っている人が一番情報に触れているので、その人たちがどれだけインサイトを持てるか、きちんとした理解を持ってビジネスにドライブをかけていくのかというのが、これからの勝負になっていくのではないかと思います。
我々サポート部門の会議でよく出る言葉に「店長に聞いた?」というものがあります。プロモーションでもブランド部門でも人事でも、何かを行おうとする時に必ず出るキーワードです。店長は意見を言わなければならないので思考力が上がっていくというところはあると思いますし、それを期待しています。そして、考えて動けるから自立した組織になり、エンゲージメントが上がっていくということもあるのではないでしょうか。

 

カルチャーを軸とした人事施策に転換するには

楠本:伝統的な会社が、カルチャーを軸とした人事施策に大きく転換してエンゲージメントを高めたい場合、留意すべきことはなんでしょうか。

安田:おっさんを黙らせることではないでしょうか(笑)。それは冗談ですが、採用活動で、我々の基準に合っているかを見る「選考」という考え方から、我々の会社で働くことの楽しさや価値を先に提示して、「みんなこれに乗れる?」というコミュニケーションがあっても良いと思います。そもそもの前提として、「うちの会社を好きでみんな知っている」と採用担当は思いがちですが、そうではなく、向こうも見ているということをもう少し意識するというのがひとつあります。
また、中途採用ではオンボードトレーニングが基本になりますが、その中でカルチャーを理解してもらうプロセスは細かく行った方が良いと思います。これはインタビューの時から行う必要があります。会社のいろいろな側面を理解してもらえます。

楠本:以前、RJP(リアリスティックジョブプレビュー)という言葉が出てきたのですが、インタビューの際に、リアルに御社のネガティブな話も出しますか。

安田:もちろん、それは言います。私自身が転職を4回経験しているので、逆の立場で言うと、ネガティブなことも最初に聞かせて欲しいというのはあります。

楠本:では最後に、エンゲージメントの向上を図っていきたいと試行錯誤されている方にメッセージを頂戴できますでしょうか。

安田:「我々は何者でビジネスを通してどんな価値を伝えていきたいのか」ということを考えることが、これからはより重要になってきます。それは経営者だけが考えることではなく、一人ひとりが考える必要があります。「なんのために働いているのか」というところを突き詰めて考えるということを、いかに機会として作っていくのかということが、これから非常に大事になるのではないでしょうか。これにはゴールがないので、常にずっと追い続けることになります。人事担当者は上から適当なことを言われて大変だと思いますが、そこは信念を持って、嫌なら辞める、半分冗談半分本気ですが、信念を持って進めていってください。ありがとうございました。

楠本:本当にいろいろなお話をありがとうございました。採用やオンボーディングなど、また別のテーマでもぜひお話を聞かせてください。

 

——-

HR RUNNERS
今後のイベント/他の記事はこちらから

関連記事

https://www.lancers.jp/file/message/24144963