事業を進めていくにあたり、その指標とするKPIは、事業の方向性を誰でもわかる形で表すことができます。それぞれの持ち場において設定されたKPIをいかに効率的にクリアしていくかを見ていくことが大切です。
では、そのKPIはどのように設定していくのでしょうか。KPIを設定するときにはいくつかの流れがあります。
〈関連コラム〉
3種類のKPIとは?
一口に「KPI」と言っても、いろいろな解釈や使い方があります。
一般的には、重要結果指標をKPIと呼ぶことが多いですが、私たちはKPIをもう少し大きく捉え、3つの種類にわけています。
ここでは、KPIの3つのレベルについて解説します。
3種類のKPI(1):KFIとは?
1つ目は、KFI、重要財務指標と呼ばれるものです。KFIは、売上や利益など、事業活動を行うにあたって財務にどのようなインパクトを与えるかを把握するための指標です。事業によっては市場シェアを指標とする場合もあります。KFIは、同一の事業活動単位で設定されます。
また、KFIはKGIとも呼ばれます。
3種類のKPI(2):KRIとは?
次に、KRI、重要結果指標と呼ばれる事業のあるべき姿がどの程度成立しているかを把握するための指標です。他社推奨率やリピート率といった事業の状況や市場への浸透状況を把握し、実際の業績とアクションを関係づけるものです。
また、KRIのみを指してKPIと呼ぶこともあります。
3種類のKPI(3):KAIとは?
最後が、KAI、重要活動指標です。KAIは、具体的なアクションをどのようにしてどれくらい実績したかを把握するための指標です。実際に実行したものが正しく運用されているか、結果はどのようになっているかを把握できます。顧客への訪問回数や新規コンタクト件数などが指標になります。
このように3つの指標はそれぞれの異なる目的を持って策定されます。
KPIの策定方法
それでは、これらの3種類のKPIはどのような順序でどのように策定していけばよいのでしょうか。
その方法によってKPIが変わっていく場合があります。
トップダウン型のアプローチ
よく見られるのはトップダウン型のアプローチです。上位指標からブレイクダウンしていく方法で策定が行われるため、ロジカルでわかりやすい指標の策定ができるといわれています。トップダウン型では、まず、売り上げなどのKFIが策定され、それを実現する方法、実施するアクションへと落としていきます。そのためKPIすべてに上位の概念が組み込まれているため、指標の数は多くなるのが一般的です。
トップダウン型のアプローチの場合は、決められた取り組みの中で網羅的に改善すべき点を見つけていく場合などに利用されるアプローチです。このアプローチは、B2Bビジネスにおけるセールス状況の進捗管理に関する指標設定などに適しています。受動型の指標の設定をする場合に適しているアプローチ方法ですので、単純でわかりやすいものになることが多いようです。
ボトムアップ型のアプローチ
ボトムアップ型のアプローチは、対象となる事業活動に関わるターゲットや周辺の理解関係者の意識がどのようなものであるかを議論していくことからスタートし、攻略的な観点から業績指標へとつなげていきます。
まず、事業活動の大目的であるKFIを策定します。KFIに効果的につなげるKRIに落とし込み、KAIへとつなげていきます。財務的な目標から落としていくものではないため、事業の内容により深く入っていくKPIを策定することができます。 ボトムアップ型では、決められた取り組みの中で網羅的に改善すべき点をみつけていくというものではなく、KPIの設定対象として人間的意識やトップラインを伸ばしていくという積極型の指標を作っていきます。
多くの事業は、積極性が求められます。そのため多くのKPIの策定は、ボトムアップの流れに沿って行われています。表裏一体の関係である事業とKPIだからこその状況を把握するための指標の策定が不可欠になります。
ストーリーをイメージしてKPIを策定する具体的ステップ
KPIを策定する方法は一つではありませんが、ここでは、ストーリーをイメージしてKPIを策定する具体的なステップを解説します。
KPI策定ステップ1:事業の大目標「KFI」を策定する
まずは、事業の大目標であるKFI(もしくはKGI)を策定します。
最も重要な点は、事業活動とは関係ない要因を排除することです。
KFIは、対象となる事業活動の成果を最終的に知るためのものです。それとは関係のないイレギュラーな要因が入り込む余地をできるだけ除外したものにしましょう。
KFIとして設定されるものに、販売金額や営業利益、来店者数、顧客満足度などがあります。
KPI策定ステップ2:ステークホルダーの「インサイト」を探索する
次に、ステークホルダーのインサイトを探索します。
インサイトとは、本人がまだ気がついていない隠れたニーズ、建前ではなく本音の部分のことで、刺激によって出てくる感情のことです。
対象となる商品やサービスを取り巻くステークホルダーのインサイトを探索することで、購買や利用のきっかけとなる重要な意識や感情を見つけ出します。
インサイトの探索手順は以下のとおりです。
- ターゲットとステークホルダーを特定する
- ターゲットやステークホルダーが計画どおりに「動いてくれない」状況を具体化する
- 阻害要因として想定されるものを抽出する
- 抽出した阻害要因を、要素間の関係性を考慮して整理する
- 成功事例から促進要因を見つける
KPI策定ステップ3:あるべき状態「KR」を導出する
そして、棚卸ししたインサイトをもとに、あるべき状態であるKR(Key Results)を導出します。
あるべき状態とは、事業目的の達成に向けて、最も効率よく進ための道しるべとなる、作るべき真理や行動、状況のことを指しています。
KRは、抽出した阻害要因の解決につながる「状態」になっている必要があります。
具体的には、KRの実現を目指すと必然的に阻害要因を解決する行動が生まれる、あるいは、KRが実現されると波及効果により阻害要因が解決されていくようなものを設定します。
つまり、KRには2種類あり、1つは阻害要因を手前で解決するタイプのもので、もう1つは事後で解決するタイプです。
KPI策定ステップ4:キーアクション「KA」を導出する
次に、KRを実現するためのKA(キーアクション)を導出します。
KAとは、KRを実現するための具体的な施策のことで、基本的にはKRの手前に設置されます。
KAには、自社でコントロール可能な活動を設定します。また、誰もが確実に実行できるものにしましょう。
たとえば、すでに運用している方法論や仕組みを変更する、もしくは新たなアクションを新設します。具体的なアクションとしては、手順や順序などの方法やシステムやツールなどの仕組み、スタッフの体制、インセンティブ制度などが考えられます。
KPI策定ステップ5:「ストーリー」としてまとめる
そして、策定したKFI、KR、KAを、想定された波及効果でつなぎ、事業目的の達成に向けた戦略を構造的に図示したストーリを策定します。
ストーリーを作ることで、戦略が機能するかをチェックし、必要に応じて精緻化ポイントを明らかにすることが可能になります。
一方で、ストーリーを作らないと、施策の効果がわからなかったり、順序論の概念が持てなかったり、戦略のよし悪しの議論ができなかったりというデメリットが生じます。
ストーリー構築の手順は以下のとおりです。
- 戦略の趣旨を示すタイトルを記入する
- KFI・KR・KAをプロットする
- 波及効果でつないで骨子となるストーリーを作る
- ストーリーを肉付け・精緻化する
KPI策定ステップ6:計測プラン「指標」を立てる
筋のいいストーリーを組み上げたら、最後にKRのための指標であるKRIとKAのための指標であるKAIを策定し、KPIマネジメントの準備が完了します。
KRIは、業績とアクションをつなぐための最も重要な指標です。リピート率や提案成立件数など、最終的に財務指標へつながる定量的に計測できるものを設定します。
KAIは、KRIのスコアアップに最も効果的に寄与すると想定されるアクション(KA)を、どれだけ実施できたかを計測するための指標です。1カウントの定義づけやチェック方法をしっかりと定めておかないと、恣意的な運用や不正カウントなどにより、データの精度が落ちる恐れがあるので注意しましょう。
KPIからストーリーをイメージする
KPIにおいてストーリーはとても大切です。特にボトムアップ型のアプローチの場合は、筋のいいストーリーを作ることが大切です。無理のないストーリーは、策定された3種類のKPIを戦略的に機能させることができます。一つひとつのアクションを上手に合わせるためには、正しいストーリーをつくらなければなりません。
そのために必要なのがマーケティングデータをいかに推測するかということです。事業を進めていくにあたり十分なデータがそろっていることは少なく、ほとんどが推測していく作業になります。事業の環境や、ステークホルダーの意識などを加味し、実際に行うアクションがどのような波及効果をもたらしていくかについて推論的に考えてストーリーを構築していきます。
さらに、でき上がったストーリーを検証して練度を高めていくことで、KPIマネジメントが実現されていきます。
KPIの策定ではストーリーをいかにイメージしていくかが重要です。
HR Design Lab.では、すぐに現場で使えるリーダーとして必要な考え方と技法を習得できるKPI研修をご用意しております。
HR Design Lab.のKPI研修(企業向け)の詳細はこちら↓↓